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古流剣術エクササイズ

古流剣術エクササイズ


 久しぶりに会った親父にめちゃくちゃ怒られた。なんでだよ。親父の言うとおりに我が家に伝わる古流剣術の道場を作っただろうが。


 俺の職業は会社経営者だ。大学進学をきっかけに上京してきて、三十歳の今では三つの会社を経営する経営者になれた。住まいはもちろん六本木。文句なく俺は成功者だろう。


 そんな俺に田舎の親父がある時言ってきた。「地元に帰って古流剣術を継げ」と。
 親父が言うにはうちの家系は戦国時代に活躍した剣術家の家系で、代々その技術を受け継いできた。親父もじいちゃんもじいちゃんのじいちゃんも皆剣術を学んできた。俺も一応剣術は学んだものの、そんなものに興味はなく東京に出てきた。
 俺は東京で仕事をしているし、剣術に興味がないから田舎に帰れるわけないだろうと言うと、お前が継がないと我が流派が廃れると親父は怒ったように言っていた。親父の子供で男は俺だけだし、姉、妹は嫁いでしまったから、継ぐのは俺しかいないのかもしれないけど、古流剣術継承ってそんなに重要? 今の時代刀を腰にさしてる奴なんていないし、そもそも刀なんて持ってたら銃刀法違反だし、戦場の武器は鉄砲とかミサイルだ。刀の時代は平成どころか明治が来る前に終わってるんだよ。


 俺がそう言うと親父は「そうか」とだけ言って電話を切った。電話越しに親父の寂しそうな背中が見えた気がする。
 仕方ない。親父のために息子が人肌脱いでやるか。俺が古流剣術を継いでやるよ。大学時代、学費や生活費でかなり無理をかけた恩返しをまだしてないしな。


 しかし俺は経営者。ただでやる古流剣術なんかやるつもりは暇はない。
 俺はこの時代遅れの古流剣術をエクササイズとして一般に広めることにした。そのために六本木のビルに一室買い取り、古流剣術エクササイズジムとしてリフォームして、エクササイズのスタッフを雇った。
 楽して痩せる、かっこ良く強くなるをキャッチコピーにギャル、ギャルサー、イベサー、ホスト、サブカル、IT系会社員、暇人マダムなんかをターゲットにして事業展開をした。俺も週に一度は道場に顔を出して汗を流した。汗を流したあとは古流剣術仲間の皆と飲み会。夏にはバーベーキューやサーフィンにも行った。ここら辺の詳しい様子はフェイスブックに載っています。


 それはともかく、これが予想以上に当たって事業が波に乗ってきたところで、親父を東京に呼んで剣術道場を見せたところ、親父は鬼の形相で怒って帰ってしまった。
 なんであんなに怒ったんだ? 古流剣術は流行ったし、塾生も増えた。俺が継がなくてもこの塾生の中から誰かが継げば古流剣術は廃れないだろう。
 「こんなものは剣術ではない」と親父は言っていたけど、本当の剣術って継ぐ必要あるのかね。


 あーあ、サイゾーとかナタリーから取材も来てたのにな。とりあえず古流剣術は親父のお気に召さないらしいので、俺は次の手を考えている。
 我が流派の古流剣術をいっそ株式会社として起こそうかな。キャバクラで話したら投資家連中も盛り上がってたしな。






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ナンバーワン歯磨き屋店員

ナンバーワン歯磨き屋店員


「はぁーいちゃんと磨けました」
「うんミサキちゃんのおかげでお口キレイキレイだよ」


  馬鹿かよ。こいつは。いや、ここの客は馬鹿ばかりだ。
  私がこの歯磨き専門店に働き始めてから三ヶ月経つが、こういった馬鹿な客しか相手にしていない。


  歯磨き専門店というのは、一昔前にあった耳かき屋とか添い寝屋とか、メイド喫茶といった類のものだ。若い女が親しい接客をして、男の客を狙う商売だ。
  

  私の働いている歯磨き専門店は、個室で客に膝枕をしながら歯磨きをしてやるというものだ。
  歯磨きは普通の歯磨き。別に歯石を取ったりとか、特別綺麗に磨けるわけじゃない。ただの歯磨き。
  客はそのただの歯磨きを、女の膝枕を目当てにやってくるのだ。


  馬鹿だろ。ただの歯磨きに金を払って人にやってもらうなんて。歯磨きなんて毎日一人でできるだろ。まぁ働いている私が言うことじゃないかもしれないけど。


  この店に来る客は何と言うか、納得できる客層というか、一言で言えば女に相手にされないだろう男ばかりだ。つまり不細工。
  何日も洗ってないようなフケだらけの髪、油ギッシュのアバタ面、異臭。
  それに顔が気持ち悪いのに加えて、動きとか発言までもが気持ち悪いんだよな。
  フシューフシュー息荒いし、膝枕してる時おしり触ろうとしてくるし、私が使った歯ブラシ頂戴とか言ってくるし。しかも一万で。
  やれるかボケ!  私の歯ブラシ欲しけりゃ百万積んで来い。


  まぁそういう奴らをターゲットにしてるから成り立つ商売でもあるんだけどね。
  女に相手にされないような奴らを、この私が相手してあげる。その見返りとしてお金を貰う。多少法外でも男共は黙って金を払うんだな。金がある間は相手にしてやるよ。


「また来るよミサキちゃん。絶対来るからね」
「うん待ってるから必ず来てね」
「うん!」


  客は満足したように帰っていった。
  疲れる。子供言葉になるのがまた気持ち悪いんだよな。
  しかし今日は給料日。ホストクラブで遊んで帰ろう。想像しただけで疲れが吹っ飛ぶ。


  待っててねセイヤ。私があなたをナンバーワンにして上げる。





囮痴漢捜査官

囮痴漢捜査官


 午前八時。タイトなスカート、黒い網タイツ、ハイヒール姿の私はいつも通りに満員電車に乗る。女性専用車両ではなく、男のサラリーマン達が車内を埋める、普通の車両に。
 

 私が入ると、車内はにわかにざわめき出す。しかしそれも少しの間だけ。すぐに皆私を無視して自分の世界に戻る。


(何回経験しても、この瞬間は堪らない……)


 私は都内のほとんど路線に乗ってきたけど、私を見た時の反応はどこもだいたい同じようなものだ。最初は好奇の目で見るが、すぐに視線を外し私の存在をなかったことにしようとする。しかし、これが私の仕事。
 田中三郎 四十五歳 男 囮痴漢捜査官の仕事なのだ。


 囮痴漢捜査官というのは、痴漢を捕まえるために警察官が囮となって電車に乗り、痴漢する犯人を現行犯逮捕するという仕事だ。もちろん公務員。 
 何故私が女装をしているかというと、囮痴漢捜査官は男がやる決まりになっているのだ。


 本当は女性警察官が囮をやった方が効率はいいのかもしれない、しかし仕事とはいえ、女性をわざと痴漢に遭わせることはできない。だから男の警察官が女装をして、痴漢を誘う役目を負うことになった。

 
 じゃあ四十五歳のおっさんが女装するのはおかしいじゃないか、痴漢だって手を出すはずがない。そう思うのはもっともだ。私だってそう思っている。しかし、先月まで囮役をやっていた若い警察官が辞めてしまったので、仕方なく私がやっているのだ。


 囮役をやっていたその若い警察官は完璧だった。男とは思えぬ細い体、白い肌、華奢な手足、女装をすれば男だとばれる心配はなかった。痴漢はこぞってそいつを狙った。検挙率だって鰻上りだった。


 しかし、それがいけなかった。 
 あまりに痴漢されるものだから、そいつは男なのに男恐怖症でノイローゼになってしまい、この部署を去った。
 すぐに代わりの若い警察官が配属されるものかと思っていたが、なかなか代わりが見つからず、仕方なく私自らが女装をして現場に立っている。


 自慢じゃないが、私の女装姿はひどい。本当にひどい。みっつとマツコを足して割ったような感じだ。学生時代はラグビー部で元々体が大きかったのに加え、中年になって脂肪が増えてきて、体の厚みがさらに増えた。
 私の姿はあきらかに女じゃない。男でもない。ただの変態だ。変態公務員(警察)だ。


 私は痴漢のような卑劣なことをする奴が許せない。そう思ってこの部署に配置されてから管理職として一生懸命働いてきたのに、なんなんだこのひどい仕打ちは。
 最初は一週間で若い奴が配属されるって言うから、一週間くらいなら現場を知る意味でも我慢するとか耐えてきたけど、一ヶ月経っても若いやつが来る気配はない。


 こんな私が囮役だから、当然痴漢に遭うこともなく、検挙率もゼロだ。
 もう耐えられない。毎朝毎朝、電車に乗るたびに蔑まれた目で見られるのは嫌なんだ。堪らないんだよ! 
 私をこの地獄から解放してくれ。

 
 せめて私を認めてくれ。
 女として認めてくれ。
 誰か俺を痴漢してくれ。





第2乙種錬金術師

第2乙種錬金術師


 会場チェックOK、筆記用具OK、受験票OK、受験票に写真も貼った。準備はばっちり。
 明日はいよいよ第2乙種錬金術師試験の日だ。


 僕はこの日のために半年間も必死に勉強してきた。過去10年間の過去問題を何度も解いたし、パラケルススの参考書も買って読み込んだ。硫黄水銀の基本問題は完璧だし、錬金霊液問題は少し苦手だけど、出題数は少ないはずだから問題はない、あとは実技のエーテル抽出だけど、学校で何度も練習したから大丈夫なはずだ。
 この第2乙種錬金術師試験は年に一度。今回を外せば次の機会は一年後。もう沙織ちゃんを待たせるわけにはいかない。


 沙織ちゃんは僕の幼馴染で初恋の人で、僕は今でも恋している。
 沙織ちゃんは今東京で魔女をしているんだ。
 僕は今回の試験に受かって、東京に行く。そして沙織ちゃんに好きだって告白する。
 東京で錬金術師の仕事をして、沙織ちゃんと一緒に暮らすんだ。合格者三割を切る第2乙種錬金術師試験の勉強のモチベーションを下げずにこれたのは、沙織ちゃんへの思いのおかげだ。


 よし、最後にもうちょっと勉強しよう。その前にモチベーションを上げるために沙織ちゃんのフェイスブックをチェック。


「……」


 僕はそっとパソコンを閉じ、ベットに入った。
 沙織ちゃんのフェイスブックに上げられていたのは、沙織ちゃんがテーマパークでドラゴンと一緒に映っている写真。二本の角を持つ山羊頭の男と親しそうに腕を組みながら。
 写真の下にはご丁寧に付き合って三ヶ月記念デートの文字。


 写真から察するに、沙織ちゃんの彼氏は一級悪魔召喚師。
 沙織ちゃんは錬金術師より、召喚師の方が好きだったのか……。
 僕が今まで勉強してきた意味は一体……。


 僕は明日のためにさっさと寝ようと思ったが、涙が溢れてきて眠れない。
 気を落ち着かせるため、僕は賢者の石を一つまみ口に入れた。






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流行色決定会議

流行色決定会議


 今年も流行色を決める会議が始まった。しかし議論は平行線。何も進展がないままニ時間が経った。


「今年は白だったのだから来年は黒などどうでしょうか」
「しかし黒は一昨年の流行色でしたから、今年はもっと違う色を流行色にしていきたいですね……」


 こうやってニ時間ああでもない、こうでもないと議論を交わしている。
 俺はこの業界は長いわけではないが、はっきり言って俺にはムダな時間にしか思えない。
 流行色と言ってもファッション、アパレル業界の流行色の話ではないのだ。今、会議室でサラリーマンたちが会議しているのは砂糖の流行色の話をしているのだ。


 砂糖だぞ。あの甘いサラサラとした砂糖だぞ。若い子たちを導いて悩ますファッションなどの流行色を決める会議じゃない。砂糖の流行色を決める会議だ。
 意味なんてあるのか。
 だいたい砂糖なんて白いか、黒いか、もしくは茶色かの三色くらいだろ。なんでそれで流行色なんて決めるんだよ!三年ごとに回ってくるだけじゃないか。


 いや確かに何年前か前に黒砂糖ブームなんてちょっとあったかもしれない。しかしそれだって色が流行ったわけじゃない。たまたま黒砂糖が珍しさもあってうけただけだ。
 なんで砂糖業界で流行色なんて決めてるんだよ。塩業界が流行色決めてるか? あっちの方が白以外に緑とかピンクとか色のバリエーションがあるだろうが。抹茶とか混ぜれば。


 しかもこの砂糖流行色会議を主催しているのが砂糖業界大手の三社で、三社とも本気で議論しているというのが質が悪い。
 創業100年サトウ製菓の佐藤専務。
 シェア50%甘露株式会社の天井常務。
 国内最大のサトウキビ農場を持つ首我さん。


 三人ともなんで砂糖にちなんだ名前なんだよ。筋金入りすぎだろ。
 こんな三人に囲まれて、最近砂糖業界に参入してきた我が社から、分けもわからず会議に参加させられた俺はどうしたらいいのかわからなかった。


 もうすぐ会議が始まって三時間が経つ。


「うーん。じゃぁ今年は黒で決まりかな」
「そうですね。二年ぶりに黒にしますか」


 やっと決まったようだ。この不毛な議論から解放される。


「ということでいいですか。藤田さん」
「えぇ私は黒が良いと思っておりました。漆黒といいますか、黒砂糖には美しさがありますからね」


 俺の不注意な一言で会議室の空気が変わる。


「漆黒……。黒色と漆黒は違うね」
「漆黒。ふむ考えたことがなかったな」
「黒にも色々あるということか。どの黒でいくか、これから決めますか」


 砂糖の流行色会議は終わらない。





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Author:カクショク
架空の職業を紹介する人。この人も架空の人物。

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